飽きた。
無職も実家も平穏も自分も。
一人暮らしに戻りたい。
彼氏が欲しい。
友達とおいしいもの食べに行きたい。
楽しい仕事がしたい。
趣味が欲しい。
ささやかなものさえも私は持ってない。
標準装備の命と体と家族だけだ。
ありがたいけどつまらない。
もっと欲しい。
資格とか職歴とかセックスだけの恋人とかじゃなくて、
もっともっと深くて没頭できて絶対的なもの。
今日、買い出しにいったスーパーで、いい感じの男の子がいた。
親についてきただけなのか手持ち無沙汰な様子で、手を後ろに組んで商品を見ながら両親のあとについて歩いていた。
両親の買い物についていくあたりまだ10代だろうか。
人の見た目で年齢を判断するのは苦手だから、本当はいくつくらいなのかわからない。
飾らない髪型、シンプルなボーダーのシャツとチノパン。
靴はお気に入りなのか、ちょっと凝ったデザインのものだった。
マスクをしてたから目元しか見えなかったけど、ギラつきすぎず無気力すぎず、素直でかわいい目をしていた。
下半身がゴツめで短めな日本人体型、中肉中背。
背は高めだっただろうか。低くはなかった。
なぜかめちゃくちゃ目で追ってしまった。
一目惚れとか欲情とかじゃないけど、なんか「あぁいう感じの人と同棲したいな」って思った。
と同時に、アイコンタクトを使いこなせる女になろうと思った。
と同時に、ひっつめ髪とテキトーワンピで外出すんのやめようと思った。
たぶんやめないけど。
なんかちゃんと身綺麗にして、男からチラ見される程度には女になりたいと思った。
無職&ブッコロナのこの状況で、どこに行けば安全にチラ見されることができるのかわからないから余計にフラストレーション。
バーにでも行って男引っかけられるような女になりたい。
ワンナイトを楽しめるくらい尻軽になりたい。
病気とか個人情報流出とか気にしないくらいバカになりたい。
私の中にはいろんな私がいる。
料理上手でいい花嫁になりたい私。
男に家政婦にされたくない私。
ヒールを履いてバリキャリウーマンになりたい私。
ノーメイクで家にずっといたい私。
仕事バリバリのハイスペ男に見初められたい私。
平凡だけど穏やかな男に愛されたい私。
自分から求めて乱れる娼婦みたいな私。
相手から求められて満たされるお姫様みたいな私。
挑んで、登り詰めて、手に入れたい私。
逃げて、避けて、楽に生きたい私。
優柔不断な決められたい私。
先導して鼓舞する頼りがいある私。
一時的にどれかの私になっても、すぐさまその逆の私がひょっこりと顔を出す。
自分らしくなさとか能力の不足感を人質にして、私を挫いて、奪って、惑わせる。
結局最後はどっちつかずで無能な真っ白の私だけが取り残される。
そしてまた足りなくて欲しくなる。
新しい人格、手の届かない環境、身の丈に合わない能力。
いつ変わるんだろう。私。