歩いて数分のところにディスカウントスーパーがある。
今の家に引っ越してきた頃に一度だけ行ったことがあったけど、当時は自炊を始めて間もない頃だったので食品の価格帯が頭に入っておらずお得感がわからなかったし、レジ袋がなく(あるけど有料でめっちゃ高い)、閉店が早く、店内は段ボールだらけで、レジのオバハンはぞんざいな態度で…
といった具合だったため、自然と足が遠のいてしまった。
そしていつかの土曜日、
「いろいろ値上げするし増税もするし株の評価損すごいからもっと節約しなきゃな」
と思ったため、数年ぶりにそのディスカウントスーパーに行ってみることにした。
レジ袋がなかったことを覚えていたのでエコバッグを携えて。
するとどうだろうか。安い。めちゃくちゃ安い。
普段行ってるスーパーより30~40円安い。
生鮮食品はあんまりない店舗だったので、メインのお目当ては調味料や乾物や油揚げ的な加工品なのだけど、それらがめちゃくちゃ安い。
ちなみにもやしはあった。普段行ってるスーパーでは安くて38円なのにここでは19円で買えた。…は、半額…。「もやしに人権はないんですか…?」つって安さにびっくりしてるはぐちさんにお婆さんが「ないね。すぐ腐るし」って言ってたシーンを思い出した。
すっぴん隠しのためにしていたマスクの中で「やすっ」「え、やっす」って値札見る度にひとりごと言いまくってた。普段は全く押し黙っているのに。そして来店は初めてではないのに。
年頃のヲトメが晴れの土曜日に遊びにも行かずすっぴんのまま買い物カゴ提げて商品を箱単位で買っていくオバハンに囲まれてひとりごとを呟くという自分の姿を客観視してしまってちょっと情けなくなったけど、そんなんすぐに気にならなくなってペットボトルのお茶を爆買いするヒョウ柄着たババアに続いて思う存分買い物してきた。
まぁまぁ大きめのエコバッグがいっぱいになるくらい買ったった。
普段行ってるスーパーでは「まぁ必要ないしな」と思って絶対に買わないようなジュースとかカップ麺とかもテンション上がって買ってしまったので、全体で見るとあんまり節約してる感じはなくなってしもた。
でも満足したのでモーマンタイ‼‼
安く買えただけでなんだこの充実感は‼‼
私も生粋のなにわっ子なんかな‼‼
安く販売できる理由をググってみたら、陳列の設備やら人件費やらを削減してるからとのこと。
確かに店員は数えるくらいしかいないし、商品を店内に搬入してくる様子を見てても『ガラガラガラ(台車が入ってくる音)』『ドサッどすんっ(段ボールのまま積み上げる音)』『ガラガラガラ(台車が去っていく音)』くらいなもんだし。
普通のスーパーみたいに高校生バイトやおばちゃんパートがひとつひとつ箱から出して陳列していくこともなければ、パッケージが正面向くように商品くるくる回してることもない。
制服もレジ袋もロール式の薄い袋もポイントカードもない。カード支払いもできない。
「今日は歩きですか?お米の袋二重にしとくね」って気遣いしてくれる人懐こいおばちゃんもいない。
いやぁ、良いよ。そういうので良いんだよ。
確かに、普通のスーパーみたいにバイトやパートがいる=雇用を生み出してるという事実はあるけど、別にスーパーで働いてない人間にしたら設備費用や人件費が加算された商品なんざ買いたくないし。ましてや薄給のただのOLだし。
私は開発するぜ!この大安売りの大宇宙を!!
とか息巻いてたら数日後に給与改定の発表があってめっちゃ昇給した。マジでトヨタくらい上がった。何かの陰謀やドッキリや計算間違いかと思ったけど普通に普通の昇給だった。
「やったぁぁぁぁ嬉しいぃぃぃぃ」とは一欠片も思わず、なんだか足元に棘のツタだか有刺鉄線だかが絡み付いたような感覚に陥った。
「これでさらに辞めづらくなった」っていうのが正直な感想だった。
ていうか社長は私の何をそんなに評価したんだ?
休みと遅刻の頻度は半端ないし、暇なのに上司に指示を仰ごうとしないし、テンションも声も低くてずっと能面だし、しょーもない仕事を納期ギリギリでなんとかクリアする程度の知識と能力しかないし、そんなに絡んだことないし…。
私がこんなに昇給してるんなら他の人はどうなってんだ?魔女や徳井さんはもう昇給分だけで家賃払えるくらいになってるんじゃないのか?
いやもしかすると逆に、「これまでの成果に対する評価」ではなくて「これからの成果の期待もといプレッシャーをかけるための昇給」なのかもしれない。
「おめぇこんだけ給料くれてやるんだから馬車馬のように働くか月2~3回くらい俺と同衾しろよ」みたいな意味合いなのかもしれない。
いや、社長はそんなヤバイ人じゃないのは知ってるけど…。
(まぁ魔女を気に入ってる時点で私からみたら充分ヤバイけど)
だから純粋に評価してくれたという方向で理解しておいても大丈夫なのかもしれない。
それはありがたいことだけど、洞察力がかなり残念なことを自己申告してしまったようなものですよ社長…。
昇給は助かるけど、そんな審美眼しか持ってないなら会社の将来が心配だな。しっかりしておくれよ本当に。
ていうか昇給という概念があるということさえ忘れてた。
だからこんなに節約に気を付けたり安い家に引っ越しを考えたり株で一儲けしようと目論んだり老後を憂いたりしてたのに、なんだか拍子抜けというか、狐につままれたとか鳩が豆鉄砲くらったとかそういう気持ちになってる。
あ、お給料って上がるんだ。
世間一般でも、上がらないかもしくは1000円程度ちょろっと増えるかが妥当だと思い込んでたけど、昇給っていう制度はちゃんと存在してたんだね。
おもいっきりサラリーマンやってるのにそこだけなぜかすぽんと抜けてたわ。
まぁ私の今回のケースは奇跡だけど…。
ほんま怖いわ…何か悪いことあるんちゃうか…。
安いスーパーで爆買いできた満足感も、年頃なのに一番充実感を感じられるのが安い食品買えたときっていう悲しさも、いつでも会社辞めたるぞっていう意気込みも、今回の昇給のことで一気に全部ぶっ飛んで、残ったのは( ∵ )って顔した生身の自分だけ。
なんやろ、このジェットコースターで下り坂に差し掛かった瞬間みたいな不安感と浮遊感は…。
っていうのを何週間か前に書いて下書きに置きっぱなしにしてた。
目玉ひっくり返るくらい昇給したけど、そんなの気にせず辞めます。
給料は仕事の我慢料だとよく言うけど、いくら高給でも我慢できないこともあることは今までの記事を見ると明確ですね。はい。
給料今より低くていいから、人間関係も仕事内容も苦じゃない環境に行きたい。腕にまた新しいほくろができてたし、他にも体が変になってるとこもあるし、もういやだ。無理だ。
明日に行くはずだった不動産屋の予定が流れた。
何しよう。無趣味つらい。